今年も一年早かった、と、思うのだけど
アンディがうちに来たのは、一年と二ヶ月くらい前。
早かったかと言うと、それはそうでもない。
というより、拾ったときのことを思うと、はるか昔のこと
セピア色の思い出になっている。
あの日、仕事場の玄関の前で、にゃぁ!と大きな声で
呼び止められた。
見ると、声の大きさとは不釣合いな、てのひらに乗るくらいの
小さくて汚い黒猫だった。
黒猫?いや、どっちかというと、蝙蝠か小さな悪魔みたいだった。
それくらい痩せて、顔がとんがっていたのだ。
網状の塀があって、手が届かないので、虫網ですくえないかと
その日、たまたま仕事が休みだった息子に電話して
網を持ってきてもらった。
一目見るなり、「ばかじゃないと!?網じゃ取れんよ。ばかじゃないと!」と
言いながら、ひょいひょいのぼって、黒猫を救出した。
そして、その場でアンディと名づけた。
数少ない拾った当日の写真。
しかし、私は、ダメじゃないかと思っていた。
どうみても、助かりそうになかった。
ガリガリで目は目やにで開かず、足も立たない。
私は一夜だけでも、毛布であったかくすごせたらというくらいの
つもりで、ひろったのだが…
息子はあきらめず、次の日、病院に連れて行った。
助かる確率、一割と言われて、息子はがっくりしてちょっと怒ってもいた。
私は、一週間の前払い三万円に、頭の中で三万円がリフレインしていた。
よく、いい人に拾ってもらったよね~と
私のことを「いい人」と言われることがある。
話せば長くなるので、「いや、いい人ちゅうわけでもないっちゃけど…」
もごもご…と口ごもるのはそういうわけだ。
私は、決してノラネコに優しくはない。
しかし、一週間待っている間に、助かって欲しい気持ちが
膨らんできて、仕事をしていても家事をしていても、
今、どうしてるんだろうと思うと、涙がこみ上げてきて困った。
どういうわけか、待っている間に、通りすがりのノラネコが、家族になったらしい。
無事、一週間の入院期間で元気になり、退院してきた。
しかし、おなかをこわしているからと、
下痢止めと、指定のネコ缶、持参での退院だった。
ところが、そのネコ缶を食べない。
せっかく、元気に退院してきたのに、また、弱っていく。
下痢止めのせいか、ひどい便秘になってもいた。
薬をやめて、マッサージして便秘解消したものの、
やっぱり、ネコ缶を食べない。
検索したり、ネコ師匠の妹に聞いたりして、思案の末、
ネコミルクをシリンジでやることにした。
最初は嫌がっていたが、だんだん、たくさん飲むようになった。
しかし、皿からは飲まないし、
これだけじゃ足りなくて、だんだん弱っていくようだ。
この間、退院して、5日くらい。
ネコを飼ったことのある人なら、なんてバカな、と思うだろうが
病院からもらったネコ缶以外、食べさせてみようと思わなかったのだ。。。
そんなとき、ミルクを薦めてくれた妹が
「カリカリやってみたら?」と電話をくれた。
それが天の声だった。
袋をあける音だけで、がばっと跳ね起き
目をキラキラッ!とさせて、突進してきて、かりかりかりかり食べた。
あまりに痩せて小さかったので、もう、カリカリを食べることが出来ると
思わなかったのだった。
一才未満用を小さく割ってやった。
それから、めきめき元気になっていたずらもするようになった。
カリカリ食べてから数日後。
とにかく、おろおろしていた半月だったので
写真が数枚しかない。
ちょっと、残念。
ずっと、おなかがすいていて、やっと、病院でおいしいものを食べて
食べすぎたんだなぁ。
そしておなかを壊したら、体に悪いと、絶対に口にしないという
動物の本能もみせてもらった。
そして、大きくなった。
4キロ。
黒豹と言われた、怖いもの知らずの時期を過ぎ
山笠の太鼓や、工事の音や、迷いこんできたすずめや
集塵機や…
怖いものがたくさんできて、いまや、怖がりネコに成長した。
友達の愛猫(おばあさんネコ)のお下がりのキャットタワー。
しかし…のぼれない。
なので、ときどき布をかけて素敵なほらあなにする。
アンディが小さかった頃のことを思うと
時間は、ゆっくり進んだようだ。
しかし、アンディと一緒に窓から外をながめていると
あっという間に、二十分くらいたってしまう。
「どうぶつじかん」はのびちぢみするらしい。