ずっと昔、アンディは小さな国の王子でした。
そのころは、まだ、アンディという名前ではなく
ただ、王子、と呼ばれていました。
しっぽがきりっと短い小さな黒猫でした。
王子は大きくなると、次の王様になるのです。
なので、王様もおきさきさまも、家来たちも
みんなで、いろんなことを教えます。
威厳のある振る舞いをするように
耳はいつもピンとたてているように、とか
だらしなく舌を出したままにしてはいけない、とか
皿からこぼれたカリカリを拾って食べてはいけないとか
転ばないで歩くように練習しろとか。
それはそれは、みんな口やかましいのです。
王子は、生まれつき足が思うように動かなかったので
転ばないで歩く練習はなによりたいへんでした。
皿からこぼれたカリカリを拾って食べて怒られたある日…
王子はこっそり城を抜け出しました。
「だって、一番おいしいカリカリだったんだ。
なんだい!いいよ、そとにでてもっとおいしいもの見つけるんだ!」
城の外は広い荒野が広がっていました。
石ころだらけの地面も、トゲトゲのある草の茂みも
黒くてぬらぬらした水たまりも、
みんな珍しくて面白くて、王子は転びながら
うれしくて、とびはねながら、あちこち歩き回りました。
しかし、おいしそうなものはみつかりません。
気がついたら、おなかがペコペコです。
「帰ろう。。」
そう思った時、大変なことに気がつきました。
帰り道がわからないのです。
王子はやみくもに歩き始めました。
しかし、行けども行けども城は見えません。
疲れはてて、座り込んだとき
目の前の木に、なんとおいしそうなカリカリが
たくさんなっているではありませんか。
登ろうとしたとき、声がしました。
「これはオレのカリカリだ。
これを取ろうとするやつは、食ってしまうぞ。」
王子は逃げ出しました。
今までで一番速く走りました。
走って走って、トゲトゲの草の茂みにかくれました。
しばらくたってそっと外を覗いてみると
そこは池のそばでした。
池のほとりには、おいしそうなカリカリがたくさんなった
草が生えています。
王子が喜んで、その草のところまでいったとき
声がしました。
「それは、オレのカリカリだ。
それを取るやつはオレが食ってやる!」
火の玉のような怪物がにやりと笑っていました。
王子は、さっきよりもっと速く走りました。
走って走って転んで走って転んで走って…
薄暗い洞穴の入り口に逃げ込みました。
しかし、そこにも…
カベがら、たくさんの顔がぶらさがっていて
口々に言いました。
「私のなぞなぞに解けるかな。」
「私のなぞなぞ解いてごらん。」
「私のなぞなぞ~」
「解けなきゃ溶かしてしまうぞぉ~」
「赤くて丸くてすっぱくて甘いものなんだ?」
「り、りんご」
「ひひひひひー、間違い間違い イチゴ味の飴だ」
「そんなのインチキじゃないか!」
「なんだとー」
いきなり化け物にしっぽをくわえられ、必死で逃げようとする王子の
しっぽは、びよんびよんと伸びていきました。
ちぎれる~と思った瞬間、化け物たちは
「のびた、のびた…ははははは」と大きな口をあけて笑いだしました。
「ははははー」「わははははー」「ぎゃははははー」
王子はそのすきに、薄く光がみえるほうへ
逃げ出しました。
長い長い洞穴を抜けると、細い四角い道に出ました。
「もう、走れない」
王子は倒れました。
ぼろきれのように横たわる王子…
長い長い時間たおれていたと王子は思いました。
気を失いそうになったその時、
城にいた家来とよく似た足音が聞こえました。
「ぼくはここにいるぞ!」
力の限りに叫びました。
それは、城の家来ではありませんでした。
しかし、その家来に似た者は、王子を助けました。
王子は、その家来に似た者から
新しい国の王様になってほしいと頼まれて
そこの王様になることにしました。
王様になったので、名前もアンディにかえました。
その後、アンディを探し出した城から使いが来ましたが
「オレは、この国の王になったから。」と帰らないと伝え
その国は、王子の妹が女王様になって栄えているということです。
めでたし。
玉座のアンディ。
正月に、チャペックのダーシェンカを読んで
こんな風に書きたいなと、パクッ…いや、オマージュ…。。
全然似なかったけど。。
もうちょっと、なんとかした話にしたいと置いていたが
明日が猫の日らしいので、アップすることにした。
最後のアンディ、今までで一番、似た!
カレル.チャペックの話の挿絵は、お兄さんの
ヨゼフさんが描いていて、それが大好きなのだが
このダーシェンカの挿絵は、カレル本人が描いていて
これも、とてもかわいい。
追記
ダーシェンカは猫ではなく、子犬です。
ダーシェンカ、というのと
子犬の生活ダーシェンカⅡというのがあります。